市場調査に要する時間を92%短縮する韓国Opensurvey、日本展開を本格化


この記事は、韓国・情報通信産業振興院(NIPA)による韓国スタートアップの日本市場参入支援に協力するbeSUCCESSとの連携によりお届けします。紹介するスタートアップは、2025年10月22日〜24日に幕張メッセで開催された「Japan IT Week Autumn 2025」において、NIPAが運営する「KOREA NIPA Pavilion」に出展しました。

2025年1月、韓国のリサーチテック企業Opensurveyが日本市場への本格参入を開始した。13年にわたるリサーチ専門企業としての蓄積と、AI技術を融合させたSaaSプラットフォーム「Dataspace」を武器に、同社は日本企業の意思決定プロセスそのものの変革を提案する。日本事業を統括するKyumin Lee(이규민)氏(上の写真)は、毎月ソウルから東京へ足を運び、対面での信頼関係構築に力を注ぐ。短期的な売上ではなく、10年、20年先を見据えた市場開拓だ。

韓国では既に130社以上がDataspaceを導入し、大手企業の意思決定スピードを劇的に改善している。しかしLee氏が日本を選んだのは、市場規模の大きさだけが理由ではない。世界で最も目が肥えた消費者を持つ成熟市場であり、企業が顧客理解に真剣に取り組む土壌がある。そして何より、日本での成功がグローバル展開への強力な実績となる。最も厳しい市場で認められることの価値を、同社は理解している。

Dataspaceは、SurveyMonkeyの使いやすさとQualtricsの高度な分析機能の間に位置する独自のポジショニングを確立している。調査会社への外注依存から、企業自身による迅速な顧客理解へ。本稿では、Lee氏へのインタビューを通じて、韓国発リサーチSaaSの日本市場の攻略戦略を探る。

再創業からグローバル展開へ——13年間の進化の軌跡

Opensurvey CEO兼共同創業者のHee-young Hwang(황희영)氏
Photo credit: Opensurvey

Opensurveyの歴史は、単純な成長曲線では語れない。同社は2011年に「IDINCU」という社名で設立されたが、現在の姿へと至るまでには、劇的な転換点があった。

2016年が、同社にとっての真の再創業だったとLee氏は振り返る。現CEO兼共同創業者のHee-young Hwang(황희영)氏は、もともとOpensurveyのクライアントだった。2013年から2015年にかけてマッキンゼーでコンサルタントとして活躍していた彼女は、戦略立案とデータ分析の専門家として、顧客側からOpensurveyのサービスを利用していた。

Hwang氏は、コンサルティングの現場で、企業が正しい意思決定を下すためには質の高いデータとインサイトが不可欠だということを痛感していた。そして、その過程でOpensurveyのサービスを使い、そのポテンシャルに気づいた。ただし同時に、まだまだ改善の余地があることも理解していた。創業メンバーの一人である現COOが、Hwang氏にOpensurveyへの参画を打診したのは、この頃だ。

2人は事実上、Opensurveyを再創業したのです。ビジネス戦略を根本から見直し、研ぎ澄ましました。(Lee氏)

2018年には社名をOpensurveyへと変更している。実は、Opensurveyという名称は、同社のウェブプラットフォームの名前だったが、それを会社名にしたほど、このプラットフォームが同社のアイデンティティの核心だった。 

この再創業以降、同社は年間30%という驚異的な成長率を記録し続けた。しかし、その原動力となったのは、単なる人海戦術ではなく、創業初期から培ってきた深い専門性の基盤の上に構築されたものだった。 

同社の現COOであるKyungrim Song(송경림)氏は、創業初期からのコアメンバーであり、サムスン電子やGoogleで韓国、シンガポール、ニューヨークを拠点に培ったB2B/Tech分野のグローバルセールスとオペレーションの深い専門性を持っている。一方、Hwang氏はマッキンゼーでデータ分析と戦略コンサルティングの豊富な経験を積んだ。 このリサーチとデータの専門性と、グローバルセールス・オペレーションの卓越性を組み合わせた強力な布陣が、同社の決定的な強みとなっている。 

2020年、Opensurveyは創業以来初めて黒字を達成した。2024年には年間売上158億ウォン(約17億円)を記録し、営業利益率が前年比9ポイント上昇するという好調な業績を収めている。

2020年から2021年にかけて、同社は重要な決断をした。短期的な利益を追求するのではなく、将来への投資を優先したのだ。新しいプロダクトの開発、特にDataspaceの構築に大きなリソースを割いた。その結果、一時的に赤字に転落したが、それは計画的な投資だった。その投資が実を結んだのが2023年12月だ。Dataspaceの正式ローンチ後、わずか10ヶ月でARR(年間経常収益)10億ウォン(約1.1億円)を達成した。Lee氏はこれが、同社の戦略が正しかったことを証明する数字だと自信を見せる。

なぜ日本市場なのか——グローバル展開の第一歩

Photo credit: Growthstock Pulse

グローバル展開の第一歩として日本を選んだ理由について、Lee氏は明快に語ってくれた。

第一に、市場規模です。日本のGDPは韓国の約2.5倍ですが、広告SaaSとリサーチ業界の市場規模は約6倍です。つまり、これらの特定分野において、私たちのビジネスチャンスは韓国の6倍あるということです。しかし、それは表面的な理由に過ぎません。

第二に、そしてこれが最も重要なのですが、日本は世界で最も成熟した市場の一つだということです。日本の消費者は非常に洗練されており、企業に対する要求水準が極めて高い。商品の品質、サービスの質、ブランドの一貫性——あらゆる面で高いレベルが求められます。これは、企業にとって大きなプレッシャーです。しかし同時に、私たちのようなリサーチツールにとっては、大きな機会でもあるんです。

第三の理由は、日本での成功が、私たちのグローバル展開の強力な実績になるということです。日本は世界で最も厳しい市場の一つです。ここで認められれば、他の市場への展開がはるかにスムーズになります。「日本で成功したサービス」という実績は、グローバル市場での信頼性を大きく高めるんです。(Lee氏)

実際、日本市場の特性は、Dataspaceの強みと見事に合致している。日本企業は、詳細で正確なデータを重視し、そのデータに基づいて慎重に意思決定を行う文化がある。Dataspaceは、まさにそのニーズに応えるツールだ。高度な分析機能を持ちながら、使いやすさも兼ね備えている。日本企業が求める「正確さ」と「効率性」の両方を提供できる、とLee氏は説明する。

地理的・文化的な近さも、日本を選んだ理由の一つだ。韓国と日本は、ビジネス文化において多くの共通点がある。品質へのこだわり、細部への注意、長期的な関係の重視——これらは両国に共通する価値観だ。だからこそ、Opensurveyは日本市場を深く理解し、適応できると確信している。

ただし、Lee氏は日本市場の難しさも十分に認識している。日本は「入りにくく、出にくい」市場だと言われている。新規参入は困難だが、一度受け入れられれば、長期的で安定した関係を築ける。同社は、その長期的な視点で日本市場にコミットしている。

SK IntelliXの成功とDataspaceの独自性

Photo credit: Growthstock Pulse

Dataspaceの実力を最も雄弁に物語るのは、韓国での導入事例だ。中でも、SK IntelliXのケースは象徴的である。

SK IntelliXは、韓国のAIを使ったウェルネス家電に特化したレンタル企業だ。同社は、顧客満足度を向上させ、市場での競争優位性を確保するために、データドリブンな意思決定を強化したいと考えていた。しかし、従来の方法では、調査の設計から実施、分析、レポート作成まで、約2カ月かかっていた。

2カ月というのは、現代のビジネススピードでは致命的に長い。その間に、市場環境は変化し、競合他社が先手を打ち、顧客のニーズも変わってしまう。意思決定のタイミングを逃してしまうリスクが常にあった。

Dataspaceの導入後、状況は劇的に変わった。同じプロセスが、わずか5日間で完了するようになった。これは単に時間が短縮されただけではない。意思決定のサイクル全体が変わったのだ。月に1回しかできなかった調査が、週に1回、場合によっては複数回実行できるようになった。これにより、SK IntelliXは市場の変化にリアルタイムで対応できるようになった。

この効率化を可能にしているのが、DataspaceのAI機能だ。同社のAIは、単なる補助ツールではない。アンケートの設計段階から、データ収集、分析、インサイトの抽出まで、すべてのプロセスにAIが統合されている。

具体的には、AIを活用したアンケート設計支援、自動テキスト分析、感情分析、トピック分析、自動翻訳機能などが含まれる。

例えば、(選択回答ではなく)何百、何千という自由回答を分析する作業を考えてください。従来は、リサーチャーが一つ一つ読んで、カテゴリー分けして、トレンドを見出していました。これには膨大な時間と専門知識が必要でした。しかし、Dataspaceのテキスト分析AIを使えば、この作業が数分で完了します。しかも、人間では見逃してしまうような微妙なパターンや、隠れたインサイトも発見できます。(Lee氏)

リサーチツール市場には、既にSurveyMonkey、Qualtricsといった強力なプレイヤーが存在する。Opensurveyの差別化戦略は明確だ。

SurveyMonkeyは、非常に使いやすく、小規模な調査には最適だ。しかし、高度な分析機能や、エンタープライズレベルの要件には対応しきれない面がある。一方、Qualtricsは極めて強力で、大企業の複雑なニーズに応えられる。しかし、その分、導入コストが高く、使いこなすには専門知識が必要だ。

Dataspaceは、この二つの中間に位置している。SurveyMonkeyの使いやすさと、Qualtricsの高度な機能を、バランスよく組み合わせている。中小企業でも導入しやすい価格設定でありながら、大企業の要求にも応えられる分析機能を持っている。これが同社の最大の差別化ポイントだ。

さらに、Dataspaceは13年間のリサーチ専門企業としての知見が製品に組み込まれている点も強みだ。例えば、アンケートの設計支援機能は、何千というプロジェクトから学んだベストプラクティスに基づいている。AI機能も、リサーチャーの思考プロセスを模倣するように設計されている。

2023年12月にローンチしたDataspaceは、リサーチと顧客体験分析に特化したB2B向けSaaSとして、韓国市場で着実に実績を積み上げている。現在、130社以上の企業がDataspaceを利用しており、その多くが、意思決定のスピードと質の向上を実感していると報告している。これが、同社が日本市場でも成功できると確信している理由だ。

初年度の挑戦——日本で1,000件のリード獲得へ向けて

Opensurveyの皆さん
Photo credit: Opensurvey

日本市場での挑戦は、既に始まっている。2025年4月にはJapan IT Week春に出展し、金融、電子、企業コンサルティングなど様々な業界の実務者がブースを訪問した。

Japan IT Weekは、Opensurveyにとって重要なマイルストーンだった。初日から、予想以上に多くの来場者がブースを訪れた。そして、同社のサービスに対する関心の高さを実感することができた。特に、AI基盤のテキスト分析機能や、顧客体験分析に最適化されたダッシュボードに対する評価が高かった。

しかし、日本市場での最大の挑戦は何か。Lee氏の答えは即座に返ってきた——信頼を獲得することだ。

日本企業は、新しいサービスやベンダーに対して、非常に慎重だ。これは、決して否定的な意味ではない。むしろ、責任感の表れだとLee氏は理解している。日本企業は、顧客や取引先に対して、常に最高品質のサービスを提供することにコミットしている。だからこそ、そのために使うツールやパートナーの選定には、極めて慎重なのだ。

この慎重さは、特にデータを扱うサービスにおいて顕著だ。顧客データは、企業にとって最も重要な資産の一つだ。そのデータを外部のツールで扱うということは、企業にとって大きな決断となる。特に、韓国企業のサービスとなると、さらに慎重になるのは当然だとLee氏は考えている。

この課題に対し、Opensurveyは正面から取り組んでいる。まず、同社はISMS-P認証を取得している。これは、韓国のリサーチ関連企業としては初めての取得だった。情報セキュリティと個人情報保護の両面で、厳格な基準をクリアしていることの証明だ。

さらに、日本市場向けには追加の対策も講じている。2025年10月には、リサーチ業界で初めてISO/IEC 27001(情報セキュリティ管理)とISO/IEC 27701(プライバシー情報管理)の両認証を同時に取得し、国際的なセキュリティ基準へのコミットメントを示した。日本の個人情報保護法、そしてGDPRにも完全に準拠している。データの保管場所、アクセス権限、暗号化、バックアップ——あらゆる面で、最高水準のセキュリティを確保している。そして、これらの詳細を、顧客に対して完全に透明にしている。

信頼構築のもう一つの鍵は、対面でのコミュニケーションだ。Lee氏は毎月、ソウルから東京に来ている。オンラインミーティングも便利だが、特に初期段階では、対面での対話が不可欠だと考えている。顔を合わせて話すことで、同社の誠意や、製品に対する情熱を直接感じてもらえる。そして、顧客の懸念や要望も、より深く理解できる。

2026年の目標について、Lee氏は明確なビジョンを持っている。初年度の目標は、1,000件のリードを獲得することだ。これは決して容易な数字ではないが、達成可能だと確信している。

この目標を達成するための戦略は、多層的だ。まず、マーケティング活動を強化している。Japan IT Weekのようなイベント出展、ウェブマーケティング、コンテンツマーケティング——あらゆるチャネルを通じて、Dataspaceの価値を伝えていく。

次に、ローカルパートナーとの協業だ。Opensurvey単独で日本市場を開拓するのは限界がある。だからこそ、日本のコンサルティング会社、システムインテグレーター、マーケティングエージェンシーなどとのパートナーシップを積極的に構築している。彼らは日本市場を深く理解しており、Opensurveyにはない顧客ネットワークを持っている。この協業によって、より効果的に市場にリーチできる。

実際、既にいくつかの協業関係が動き始めている。ローカライゼーションとSEO対策の専門企業との協力により、日本語での情報発信を強化している。また、複数のコンサルティング会社と話を進めており、彼らのクライアントへのDataspace紹介を検討している。

そして最も重要なのは、既存顧客の成功だとLee氏は強調する。同社は既に、日本で第一号顧客を獲得した。スマートシティ関連事業を展開する大手企業で、顧客理解と体験分析のニーズが高い領域だ。詳細は明かせないとしながらも、Lee氏は手応えを感じている。この顧客との関係が成功すれば、それが次の顧客獲得への最良の武器になる。日本では、他社の成功事例が非常に重視される。だからこそ、Opensurveyは最初の顧客の成功に全力を注いでいる。

2026年以降の展望——アジア太平洋地域への拡大

Photo credit: Opensurvey

日本での成功は、Opensurveyのグローバル展開における重要なステップだが、最終目標ではない。日本で実績を積んだ後、同社は他のアジア太平洋地域への展開を計画している。

具体的には、シンガポール、オーストラリア、そして東南アジアの主要市場を視野に入れている。これらの市場は、それぞれ異なる特性を持っている。シンガポールは、アジアのビジネスハブであり、多国籍企業のリージョナルヘッドクォーターが集中している。オーストラリアは、英語圏の成熟市場で、高度な分析ニーズを持つ企業が多い。東南アジアは、急速に成長している市場で、デジタル化が加速している。

しかし、これらの市場に進出する前に、日本での成功が不可欠だ。日本で認められたサービスは、アジア太平洋地域全体で高い信頼性を持つ。「日本の厳しい基準をクリアした」という実績は、他の市場への展開を大きく加速させることになる。

グローバル展開において、Opensurveyは製品のローカライゼーションにも注力している。言語対応はもちろんだが、それだけでは不十分だとLee氏は指摘する。各市場の文化、ビジネス慣行、規制環境に合わせて、製品をカスタマイズする必要がある。例えば、日本向けには、日本特有のビジネス文書フォーマットに対応したレポート機能を追加した。こういった細かい配慮が、実は非常に重要なのだ。

技術面での進化も続いている。同社は、AI機能のさらなる強化に投資している。現在のテキスト分析、感情分析、トピック分析に加えて、予測分析、レコメンデーション機能などを開発中だ。将来的には、過去のデータから学習し、企業に対して「次にどんな調査を行うべきか」を提案できるようになる予定だ。

また、Dataspaceは顧客体験(CX)管理の領域にも拡大している。リサーチとCXは、密接に関連している。企業が顧客を理解し、その体験を改善するためには、継続的なデータ収集と分析が必要だ。Dataspaceは、ワンタイムの調査だけでなく、継続的なCX管理プラットフォームとしても機能できるよう進化している。

2025年6月には、Dataspaceの無料プランを新設し、誰でもコストなしに基本サービスが利用できるようにした。これは、より多くの企業にDataspaceを試してもらうための戦略だ。特に、中小企業やスタートアップにとって、初期投資のハードルは高い。無料プランで価値を実感してもらい、ビジネスの成長とともに有料プランに移行していただく——このフリーミアムモデルは、SaaS業界では実証済みの戦略だ。

採用面でも、Opensurveyは日本市場へのコミットメントを強化している。現在は、韓国のチームが日本市場をサポートしているが、将来的には日本に専任チームを構築する計画だ。セールス、カスタマーサクセス、マーケティング——各分野で日本市場を深く理解している人材を採用し、よりきめ細かいサポート体制を整えていく。

10年後、20年後、日本のビジネスシーンで、Opensurveyが当たり前のように使われている——そんな未来を描いています。顧客の声を聞き、データに基づいて意思決定することが、特別なことではなく、すべての企業にとって日常的な行動になる。そして、その実現を支えるツールとして、Dataspaceが選ばれている。それが弊社の目標です。(Lee氏)

Opensurvey 日本事業部部長 Kyumin Lee(이규민)氏
Photo credit: Growthstock Pulse

インタビューの最後に、Lee氏は改めて日本市場への想いを語った。

信頼を獲得するには時間がかかることは理解しています。しかし、私たちには、13年間で培ってきた専門知識があります。そして、何より、顧客の成功を支援したいという強い思いがあります。(Lee氏)

毎月、ソウルから東京へ。対面での対話を重ね、一社一社と関係を築いていく。その地道な努力の先に、Lee氏が見据えているのは10年、20年後の未来だ。日本のビジネスシーンで、Opensurveyが当たり前のように使われている——その日が来るまで、同社の挑戦は続く。

韓国発のリサーチSaaSが、日本の企業文化に新たな風を吹き込む日は、そう遠くないかもしれない。Kyumin Lee氏の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

Growthstock Pulse